☆Vol.3 ナカムラ流
オステリア ナカムラのオーナーシェフ、中村直行シェフは、実は過去から現在にいたるまでいろいろなメディアに取り上げられ、数々の取材を受けています。
もちろんこのホームページ担当記者も、お客さまの求める情報を更新していくために、「シェフ、これからのシーズンでおすすめの食材って何スかね~?あ、ラグーは何を作るんスかぁ~?」などとカウンターの一角を陣取り、一時も手を休めずにていねいな仕込みをするシェフにやおら聞き込みを試みたりしております。
ナカムラのお客さまであればご存知のとおり、ナカムラではパン、パスタ、デザートにいたるまで、一つ一つが細部までシェフ・メイド。デザートに添えるクッキーだって、その上に踊る「Happy Birthday!」の文字やコーヒーカップのイラストだって、シェフが心をこめて焼き上げています。
かくてメディアの掲載記事には「妥協を許さない」とか「丹精こめた仕事」とか「手仕事一筋」とかの文字が並ぶところとなり、おまけに「空手の名手」なんてことまで書かれた日には、困ったような照れくさそうな顔で笑っているシェフの写真が横に小さく載ってはいても、おヒゲの風貌と相俟って、何だか年の半分はイタリアの山にこもって薪割りでもしてそうな雰囲気です(笑)。
しかしさにあらず。シェフの仕事を身近で見せてもらうようになってから感じるのですが、キッチンにいるシェフは実に楽しそう!粉を計ったり野菜を刻んだり肉の下ごしらえをしたり、無駄な動きは全くないのにリズミカルで軽やかな、何となく音楽的な流れの中で、あの手打ちパスタやテリーヌやラグーが生まれていくのです。むろん、その軽妙さの中にも、「妥協を許さ」ずに「丹精こめた」「手仕事」を「一筋」に無心にやっているわけで、ただ、シェフにとってそれは、決して眉間にしわを寄せたり額に青筋立てたりすることではないんですよね。
それを象徴するのがシェフへの禁断の質問です。―「シェフのこだわりは何ですか?」取材の最中も手を休めることのないシェフの動きが思わず止まり…「それを聞かれるのが一番困るんだよ~」と頭を抱えるシェフ。かつてナカムラを取材に来たメディアでこの禁断の質問をしなかった人はいないそうで(取材者としては当然です)、「オレにはこだわりがないんだよ~」と苦しそうに叫ぶシェフの姿に思わず絶句、そして失礼ながら大笑いしてしまいました。
当たり前なことすら「こだわり」だと声高に叫ぶことの多いこの針小棒大な時代に、「こだわりがない」と頭抱えて困っている本人がしているのは、繊細な料理の味から素材の吟味にいたるまで、真っ当な料理を出すための真っ当な仕事に他なりません。そういうの、世間では充分に「こだわり」っていうんですよ、シェフ!
ともあれシンプルでうまくてお腹も心もお客さまが満足してくださる料理、がナカムラ流。美味しいものを生み出す人が楽しそうで幸せそうだったら、それを食べる人はきっともっと楽しくて幸せだろうって思うんですが、いかがでしょう?
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