Osteria Nakamura

☆Vol.7 ドルチェ

  イタリア語に「Dolce Vita ドルチェ・ヴィータ」という言葉があります。「甘い生活」を意味するこの言葉は、かの有名な、フェデリコ・フェリーニ監督のイタリア映画の題名として世界中に広まりました(1960年に公開・原題:La dolce vita)。映画で描かれた、苦味や渇き、退廃をふくんだ人生で味わう大人の上級な恋愛と官能の甘美さは、「ドルチェ・ヴィータ」という響きをちょっと特別な言葉としてひとり歩きさせたように思います。最近では、映画は知らなくても、クリスチャン・ディオールの香水やロンジンの腕時計の名として、ご存知の方も多いのではないでしょうか。 人生の豊かさやハイクォリティなものが与える大人の遊び・楽しみをシンボライズした「ドルチェ・ヴィータ」という命名は、すでにイタリア語を離れているようでいて、むしろイタリア人の人生観により近いニュアンスを取り戻している気がします。
  何せイタリア人にとって人生を楽しむことは重要課題、その筆頭は食べることと愛することですが、イタリア人の「ドルチェ・ヴィータ」は、まさしく「甘い生活」=「甘い物とともにある生活」と言えるでしょう。朝はバールでカフェ(エスプレッソ)やカプチーノとクリームクロワッサン、仕事の合間にちょいとお茶する時にはやはりバールでカフェとビスコッティ(堅いビスコッティをコーヒーにつけて食べる)やブリオッシュ、午後はやっぱりジェラートははずせないし、夜遅く食べ始めるディナーでもしめくくりにやっぱりティラミスやパンナコッタ、ズッパイングレーゼやマチェドニアなどのドルチェ(デザート)は欠かせません。そしてたっぷりドルチェを食べた後、映画のように甘いため息をつきながら「ダメよ…」とイタリア女性が手を伸ばすのは……チョコラータ(チョコレート)!「男性のどんな誘惑よりチョコラータの誘惑に負けてしまうわ」とは友人のミラネーゼの弁。(ジャポネーゼも左に同じ!)
  イタリアのドルチェで特徴的なのはその土地土地で生まれた独特のリキュール(アルケルメスやアマレット、マラスキーノ、フランジェリコなど)を使ったものが多いこと。オステリアナカムラで定番でお出ししている「 ボネ(Bonet)」はピエモンテ地方のチョコレートプディングですが、これにはアマレッティというアンズの核で作ったアマレット・リキュールの入ったクッキーが入ります。さらにシチリアの誇るマルサラ酒も使うとか。同じく定番の焼きプリンにはオレンジの香りのリキュール、グランマルニエ。また、今の季節、みずみずしくておいしい桃は、コンポートになってスペシャリタで登場。これにはマラスキーノ、チェリーを原料にしたリキュールを使うのがシェフのオリジナル。逆にコーヒーリキュールが使われることが多い「ティラミス(tiramisu)」には、シェフはコーヒーとラム酒を使うそうです。食感や香りのマリアージュにこだわるシェフならではのレシピ…聞いているだけで「Dolce Segreto ドルチェ・セグレート」=甘い誘惑にかられそう!!
 「甘い」をそのまま意味する「ドルチェ」、でも中にはちょっと苦みを含んだアルコールがしっかり香り……この苦みがわかってこそのドルチェ。つまり、ドルチェはやっぱり「大人の楽しみ」だということです。

 

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