Osteria Nakamura

☆Vol.9 マンマの味

 2009年。新年と共に地上に舞い降りたのは天使…ではなく、イタリア人のおばちゃま3名。南イタリアからやってきた彼女たち、初めての日本に降り立った時から空港で荷物が出てこないという大騒動に見舞われ、航空会社の係員相手にハイテンション。まあまあ、とりあえずすぐになきゃ困るってものでもないし…、となだめようとすると「ノ(NO)!」と異口同音にえらい剣幕です。えー、なに、そんなに大切な何がスーツケースに入っているの?とたずねると、今度は急に何となくみんな顔を見合わせてもぞもぞ…。「…」え?え?えー???
  2日後。スーツケースに大切にしまわれて日本まで運ばれた「それ」はやってきました。三者三様の荷物から取り出された「それ」はマンマの味のトマトソースにラビオリ!その無事を確認した時のマンマたちの安堵と笑顔といったら…。
  イタリアの家庭料理はたくさんあって、もちろんすべてがそれぞれのマンマの味なのですが、何となく、家族が久しぶりに全員そろうとか、遠くからお客さまがみえるとか、そんな時には不思議とラビオリが登場します。このマンマたちも3人で打ち合わせたわけでもないのに、3人それぞれに日本でラビオリを作ろうと思って持ってきた、その辺がさすがイタリアのマンマ。彼女たちがさっそく変わりばんこに腕を振るってくれたラビオリはシンプルなトマトソースやラグーとともに供され、「ブォーノ(おいしい)!」「ブォニッシモ(最高)!!」の賞賛の声に実に満足げ。
  そんな満足げなマンマたちを見ていたら、あれ?この感じどこかで……。記憶をたどってみると、そういえばカウンターの向こうの直行シェフ!オステリアナカムラでもシェフの手打ちパスタやニョッキが人気です。「シェフ、おいし~い!」と声をかけると「おいしいスか?」と応じるシェフの笑顔が確かこんなだったような。毎日せっせと、そして嬉々と、労をいとわず材料を選び粉をこね麺を打ちソースを作って、自分で「うん、最高!」と思えるものを人に食べさせる喜びと満足。当たり前だけど、料理の基本って愛情なんだなって確認してしまいました。
  ところで当のマンマたちも、お手製の料理ばかり食べている訳ではありません。たとえば「とんかつ定食」。これはイタリアにもかの有名なミラノ風カツレツがあるので、軽くクリア。定食のごはんに味噌汁は一緒に食べずにとんかつだけ食べる。その後、ごはんを「リーゾ(米)?」味噌汁を「ズッパ(スープ)?」と確認後、何と味噌汁をごはんにかけて「リゾット・ねこまんま風」で完食。たとえば「すきやき」。生卵は食べたことがない、ズッパがあまい、などの理由でトライするもののイマイチ。たとえば「エビフライ」で「世界の終わりくらいおいしい」と感動し、たとえば「キュウリ」を「生で食べるズッキーニ」と評し、たとえば「おだんご」を「ニョッキ?」、たとえば「イチゴ」は「ドルチェほどに甘くておいし~い!!!」etcetc...でも意外にマンマたちのキャパが広いことに驚きます。
  朝から晩まで、お決まりのセリフ「マンマ・ミーア!」をくりかえしながら、マンマたちの異文化体験は続くのでした。

 

 

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